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おひとりさま検査技師のひとりごと
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2026年7月

健康・検査のこと

その動悸、本当に更年期ですか?|50代女性と甲状腺の、まぎらわしい関係

先に、結論から。
・疲れやすい・ほてり・動悸・気分の落ち込み——更年期の不調と甲状腺の病気は、症状がよく似ています。症状だけで区別するのは、むずかしいことがあります。
・区別の決め手は血液検査(TSH・FT4など)。健診の項目に入っていないことも多いので、気になる不調が続くなら「甲状腺も調べてもらえますか」と相談を。
・甲状腺の病気は女性に多く、50代前後から目立ちやすくなります。首の腫れやしこり、続く動悸は、一度確かめておくと安心です。

私はふだん、超音波(エコー)検査を担当しています。健診で首のエコー(頸部超音波)をしていると、甲状腺に異常が見つかることが、ときどきあります。そして現場の印象として——女性に多いのです。

ご本人はまったく気づいていないことも、めずらしくありません。「えっ、甲状腺ですか?」と驚かれる、あの表情を、何度も見てきました。

のどぼとけの下にある蝶のかたちの臓器・甲状腺を示したイラスト

▲ のどぼとけの下に、蝶がひとつ。それが甲状腺です。

甲状腺って、どこで何をしている?

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある、蝶のかたちをした小さな臓器です。ここから出る甲状腺ホルモンは、いわば体の代謝の「アクセル」。体温を保つ、心臓を動かす、エネルギーを使う——全身の「回転数」を調整しています。

アクセルですから、踏みすぎても、ゆるみすぎても、体に不調が出ます。これがあとでお話しする「まぎらわしさ」の正体です。

なぜ、50代前後の女性に目立つのか

閉経の前後から甲状腺の病気が目立ちやすくなる背景には、いくつかの要素が重なっていると考えられています。

  • 年齢……年齢が上がるほど、甲状腺の機能の異常や、しこり(結節)は見つかりやすくなります
  • ホルモン環境の変化……閉経後は女性ホルモンが低下します。その変化のなかで、甲状腺の不調が表面化しやすくなると考えられています(はっきり分かっていない部分もあります)
  • 自己免疫……橋本病(慢性甲状腺炎)やバセドウ病(Basedow病/Graves病)は、免疫が自分の甲状腺に働いてしまう病気で、女性にとても多いことが知られています。甲状腺の腫れや機能異常の、代表的な背景です
  • 良性のしこり……甲状腺には良性の腫瘍やしこりもでき、加齢とともに増えます。エコーで初めて見つかることがよくあります
  • 薬の影響……一部のお薬が甲状腺の働きに影響することもあります(服用中の薬は、受診時に必ず伝えてください)

ひとことで言えば、加齢+ホルモン変化+自己免疫の組み合わせが中心です。どれも自分では防ぎようのないものばかり。だから「気づけるかどうか」が大事になります。

症状は正反対——「アクセル踏みっぱなし」と「ゆるみっぱなし」

甲状腺の機能異常は、ホルモンが多すぎる状態(機能亢進)と少なすぎる状態(機能低下)で、症状がまったく違います。

状態 体のようす よくある症状
機能亢進
(多すぎ)
アクセル踏みっぱなし。代謝が過剰に 動悸・脈が速い/暑がり・多汗/食欲はあるのに体重が減る/手の震え/イライラ・眠れない/疲れやすい・息切れ/首の腫れ。眼球突出が見られることもあります(バセドウ病の一部)
機能低下
(少なすぎ)
アクセルゆるみっぱなし。代謝が低下 だるさ・眠気・気力の低下/寒がり・汗が減る/体重増加/便秘/皮膚の乾燥・むくみ/記憶力の低下・動作がゆっくりになる

こうして並べると、お気づきでしょうか。どちらの症状も、「更年期のせいかな」「年のせいかな」で流せてしまうものばかりなんです。

更年期の不調と、見分けがつかない

疲労感、ほてり、動悸、気分の落ち込み——更年期によくある不調と、甲状腺の症状は、本当によく似ています。症状だけで区別するのは、むずかしい。だからこそ、血液検査で確かめることが大切です。

そして、現場でよく見かける流れがあります。動悸が気になって、循環器内科を受診する方。実は多いんです。心臓を調べて、そのうえで50代の女性の場合、「甲状腺も見てみましょう」と検査が進むことが、よくあります。動悸の出どころが、心臓ではなく、のどもとの蝶だった——そういうことがあるからです。

検査の流れ——まずは血液検査から

調べる順番は、だいたいこうなります。

  1. 血液検査……まず TSH・FT4・FT3 という項目で、甲状腺ホルモンの量と、その指令のバランスを見ます
  2. 自己抗体の検査……必要に応じて、TPO抗体サイログロブリン抗体(TgAb)・TRAb などを調べ、橋本病やバセドウ病かどうかの手がかりにします
  3. 甲状腺エコー……首の腫れやしこりがある場合は、エコーで甲状腺の大きさや、しこり(結節)の有無・様子を確認します
  4. 細胞診……悪性が疑われるしこりには、細い針で細胞をとって調べる検査(穿刺吸引細胞診)を行うことがあります
💡 検査技師の豆知識
TSHは甲状腺ホルモンそのものではなく、脳(下垂体)から甲状腺への「指令」です。おもしろいのはその動き方で、甲状腺が弱ってホルモンが減ると、TSHは逆に上がります(「もっと働いて!」の号令が強まるため)。だから検査結果では「TSHが高い+FT4が低い=機能低下」「TSHが低い+FT4が高い=機能亢進」という、シーソーのような関係になります。健診の結果にTSHがあったら、そんな目で眺めてみてください。

なお、TSHなどの甲状腺の項目は、ふつうの健診には入っていないことが多いのです。健診の数値の読み方でお話しした基本セットにも、甲状腺は含まれていません。気になる症状が続くときは、受診して調べてもらうのが確実です。

🚦 受診のめやす
動悸・脈の乱れが続く → まず受診を。心臓とあわせて、甲状腺も調べてもらえることがあります
首の腫れ・しこりに気づいた → 内分泌内科や甲状腺の専門外来へ。エコーで確かめられます
だるさ・寒がり・体重増加など「らしくない不調」が続く → 「更年期のせい」と決める前に、血液検査(TSH・FT4)で一度確認を

まとめ:「更年期のせい」と決める前に、一度だけ

  • 甲状腺の病気は女性に多く、50代前後から目立ちやすくなる(加齢+ホルモン変化+自己免疫)
  • 症状は更年期の不調とそっくり。症状だけでの区別はむずかしい
  • 決め手は血液検査(TSH・FT4など)。健診に入っていないことも多いので、続く不調は相談を

不調を全部「更年期だから」「年だから」と引き受けて、がんばってしまう——50代の女性には、そういう方がとても多い気がします。でも、その中に、調べれば分かって、治療の道がある不調も、まぎれているかもしれません。

そして、だるさや気力の低下は、数値に出るものばかりではないことも、私は知っています。検査では何も引っかからないのに、なんだか、すり減っている——そんな日々のことは、おひとりさまの正直なひとりごとに書きました。体の点検とあわせて、心のほうも、どうかいたわってあげてください。

※この記事は、検査技師としての一般的な知識と、現場での経験をまとめたものです。診断・治療は、必ず医療機関でご相談ください。

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