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おひとりさま検査技師のひとりごと
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2026年7月

健康・検査のこと

身近な人が、脳卒中で倒れた|前触れ・FASTの合言葉・おひとりさまの備え

「血圧、高めだねえ」「お互いにね」。

そんなふうに笑い合っていた、同世代の身近な人が倒れました。脳卒中でした。前触れは、なかったそうです。

50代になると、健診の数字を見せ合って笑う相手が、何人かいるものだと思います。その軽口の中に、ある日突然、本番が混ざってくる。今回、それを突きつけられました。

だから今日は、笑い話のうちに読んでほしい話を書きます。

脳卒中の合言葉FAST(顔のゆがみ・腕が上がらない・ろれつが回らない・時間を確認して119番)
先に、いちばん大事なことから。
合言葉は「FAST(ファスト)」です。
F(Face・顔)=顔の片側がゆがむ、口角が下がる
A(Arm・腕)=片腕に力が入らない、上がらない
S(Speech・言葉)=ろれつが回らない、言葉が出ない、相手の言葉が理解できない
T(Time・時間)=「いつから」を確認して、伝える
ひとつでも当てはまったら、様子を見ないですぐ119番。脳卒中は、時間との勝負です。

脳卒中は、ひとつの病気ではありません

「脳卒中」は、脳の血管に急に起きるトラブルの総称です。大きく3つに分かれます。

何が起きているか
脳梗塞脳の血管が詰まって、その先に血液が届かなくなる
脳出血脳の中の血管が破れて、出血する
くも膜下出血脳の表面の血管にできたこぶ(脳動脈瘤)が破れるなど

病院に着くと、まず症状と神経の所見を確認して、頭部CTやMRIで脳の状態を評価します。脳梗塞が疑われれば、MRAやCTAという血管の画像検査で、どこが詰まっているかを確認することがあります。

治療は型によって違います。脳梗塞では、詰まった血流をもう一度流すことを目指す治療が検討されるため、「発症からどれくらい経ったか」と画像の所見をもとに、急いで方針が決められます。脳出血では血圧や脳圧の管理を含めた全身の管理が中心で、状態によっては手術が検討されます。くも膜下出血は「突然の、経験したことのない激しい頭痛」が手がかりのひとつで、再出血を防ぐために、原因の脳動脈瘤への緊急の手術や血管内治療が早い段階で検討されます。

型は違っても、共通することがひとつあります。どの型でも、急性期は時間が勝負だということです。

ちなみに、厚生労働省の統計では、脳血管疾患は2024年の日本人の死因の第4位(全死亡の6.4%)です。昔に比べれば減ってきた病気ですが、いまも、これだけそばにあります。

「治った」が、いちばん危ない(前触れのTIA)

もうひとつ、知っておいてほしいものがあります。一過性脳虚血発作(TIA)です。

顔のゆがみや腕の脱力、ろれつの回りにくさが出たのに、数分から短い時間で、すっと消えてしまう。「疲れてたのかな」「治ったからいいか」と思ってしまう。これが、いちばん危ない流れです。

TIAは、脳卒中の前触れとして重要なサインです。症状が消えても、血管の中で何かが起きかけたことに変わりはありません。「消えたから様子見」ではなく、消えても受診してください。前触れの段階でつかまえられれば、本番を防げる可能性があります。

⚠ ここだけは覚えて帰ってください
短い時間で症状が消えても、それは「治った」ではなく「前触れ」かもしれません。消えても、その日のうちに受診を。

なぜ「時刻」をメモするのか

FASTの最後の「T(Time)」だけ、少し補足させてください。

脳梗塞で詰まった血流をもう一度流す治療には、血栓を溶かす薬(t-PA)を点滴する方法と、カテーテルという細い管を血管の中に通して、血栓を直接取り除く血管内治療(血栓回収療法)があります。薬は発症から4.5時間以内が目安とされ、血管内治療は、画像検査などの条件が合えば発症から24時間以内まで検討されることがあります(これは主に脳梗塞の話です。脳出血とくも膜下出血の治療は、先ほど書いたとおりです)。

数字を並べましたが、覚えてほしいのは数字そのものではありません。病院に早く着くほど、選べる治療の幅が広がるということです。「4.5時間あるから、まだ大丈夫」ではなく、1分でも早く。逆に、時間が経ってしまっていそうな場合でも、自己判断で諦めないでください。目安の時間を過ぎていても検討される治療はあります。間に合うかどうかを決めるのは、家ではなく病院です

だから救急の現場では「いつからですか」が、必ず聞かれます。

倒れた瞬間を見ていたなら、その時刻を。朝起きたら様子がおかしかったなら、「昨夜、最後に元気だった時刻」を。スマホのメモでも、紙の走り書きでもかまいません。この一行が、治療の入口で効いてきます。

首の血管は、全身の血管の「窓」です

ここからは、検査技師としての話です。私は仕事で頸動脈エコーという、首の血管の超音波検査をしています。

頸動脈は皮膚のすぐ下を通っているので、超音波でとてもよく見えます。だから、全身の血管がどれくらい傷んできているかを映す「窓」として使われます。首を見て、全身を推し測るわけです。

画面で見ているのは、血管の壁の厚さと、プラークと呼ばれるこぶのような盛り上がりです。プラークがあるかどうかだけでなく、厚いか、石灰化して硬くなっているか、表面がでこぼこしていないか、中身がやわらかそうに見えないか(低輝度といいます)、血流でゆらゆら動いていないか——そういう「性質」まで見ています。やわらかいものや動くものは、はがれて血流に乗り、脳の血管を詰まらせることが心配されるからです。狭窄が50%を超えてくるような場合には、外科的な治療が検討されることもあります。

長くこの検査をしていると、実感することがあります。血管の傷み方は、年齢どおりではないんです。年齢の割にきれいな方もいれば、年齢よりずっと進んでいる方もいる。その差を毎日画面で見ているからこそ、「血圧高めだね」という軽口を、私はもう軽く聞けなくなりました。

白状すると、私自身の頸動脈も、正常範囲ではあるものの、壁が厚くなってくる傾向があります。数値がひとつ正常だったかどうかより、去年より進んだか——点ではなく線で見る。これは腫瘍マーカーの記事でも書いた、私の変わらない姿勢です。

💡 検査技師の豆知識:頸動脈エコーは、こんな検査
首にゼリーを塗って、超音波の器械を当てるだけ。痛みはなく、放射線も使いません。時間はだいたい15〜20分ほど。服を脱ぐ必要もないので、首元の開けやすい服で来ていただけると助かります。人間ドックのオプションや、外来で受けられることがあります。

予防は、地味なことの積み重ねです

脳卒中の予防に、裏ワザはありません。でも、効くとされていることは、はっきりしています。

  • 血圧の管理。いちばんの土台です。家庭での血圧測定、減塩、そして薬を自己判断でやめないこと。「調子がいいから」とやめた頃が、いちばん危ない。家庭血圧の測り方は血圧の記事にまとめています。
  • 糖尿病・脂質異常症の管理。定期受診と検査、食事と運動の継続。コレステロールの話も、血管の話としてつながっています。
  • 心房細動の早期発見。脈が乱れる不整脈のひとつで、心臓の中にできた血のかたまりが脳に飛ぶことがあります。健診の心電図は受けておく、動悸や息切れがあれば受診する。心房細動がある場合は、血を固まりにくくする治療(抗凝固療法)などが検討されます。
  • 禁煙。受動喫煙も含めて。
  • お酒はほどほどに、体重管理と運動習慣も。
  • 睡眠時無呼吸。強いいびきや日中の強い眠気があれば、一度相談を。

それから、季節の話をふたつ。冬はヒートショック。寒い脱衣所から熱い湯船へ、といった急な温度差は、血圧を大きく変動させて体の負担になることがあります。そして夏は脱水です。汗をかいて体の水分が減ると、血液が濃くなります。私自身、水分は意識して摂っているつもりでも、自分の尿検査の結果を見て「あれ、足りてなかったかな」と思う日があります。体は、思っているより水分が足りていないことがあるんです。

一人暮らしの「T」は、誰が押してくれるのか

最後に、おひとりさまの話です。

見聞きしてきた中には、仕事中に倒れて、同僚がすぐ気づいて救急車を呼んでもらえた人がいました。一方で、出勤してこないのを心配した職場からの連絡で、初めて気づかれた人もいました。

仕事のある日は、誰かの目があります。問題は、一人の時間です。FASTの「T」は、そばに誰かがいる前提の合言葉です。一人暮らしの私が倒れたら、誰が時刻をメモして、誰が119番を押してくれるのか。

📱 一人暮らしの、いちばん簡単な備え
よく言われる備えは、シンプルです。スマホを、常に体のそばに置くこと。 お風呂でも、トイレでも、手の届くところに。倒れて動けなくなっても、片手さえ動けば助けを呼べます。たったそれだけのことが、一人暮らしでは命綱になります。

そして、助かった「あと」のことも、あります。入院の保証人、家のこと、お金のこと。考えるのは怖いけれど、考えておくと、少しだけ怖くなくなる——それは先日、母の入院で本気で考えて、一人暮らしで入院したら、誰に頼る?という記事にまとめました。この記事の続きとして、読んでもらえたらうれしいです。


「血圧高めだね」と笑い合える相手がいる方は、今度会ったとき、FASTの話をしてみてください。笑い話のうちに話しておくのが、いちばんいいんです。

私は今夜から、脱衣所の棚にスマホを置いて、お風呂に入ります。

※この記事は一般的な情報をまとめたものです。気になる症状があるときは、診断・治療は医療機関でご相談ください。

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