2026年6月
家計・節約のこと親が認知症になる前に|実家じまい・相続のために元気なうちに準備したいこと
前編では、母との距離や、跡取りじゃない私の本音を書いた。今回は、その続き。気持ちの話ではなく、現実の手続きの話だ。
正直、考えたくないテーマだ。でも、病院で働いていると、「準備していなかった家族」が、どれだけ大変な思いをするかを、嫌というほど見てきた。倒れてからでは遅いことが、世の中には確かにある。
最初に断っておくと、私は法律の専門家ではない。だから具体的な手続きは、必ず司法書士や行政書士、お住まいの地域包括支援センターに相談してほしい。ここに書くのは、私自身が「まず知っておいてよかった」と思ったことの整理だ。
▲ 重いテーマだけど、元気な“今”だからこそ、少しずつ。
認知症になると、実の子でも親のお金は動かせない
これは、私がいちばん驚いたことだ。
親の判断能力が大きく低下したと銀行が判断すると、口座が「凍結」される。そうなると、たとえ実の子でも、親の預金を引き出せない。生活費も、介護費も、入院費も。実家を売ることも、できなくなる。
「家族なんだから」は、通用しない。むしろ、本人を守るために、家族でも勝手に動かせない仕組みになっている。
では、凍結された後はどうするか。残された道は、基本的に「法定後見制度」だけ。家庭裁判所に申し立てて、後見人をつけてもらう。
ここで、もうひとつ驚いたこと。後見人を選ぶのは家庭裁判所で、家族がなれるとは限らない。実際、親族が選ばれるのは2割弱で、8割以上は司法書士や弁護士などの専門職だという。そして専門職がつくと、月に2〜6万円ほどの報酬が、原則として本人が亡くなるまで、ずっと発生する。
つまり、「認知症になってから」では、選べる手が、ほとんど残っていない。
だから、「元気なうちに」しか打てない手がある
裏を返せば、母が元気な今のうちなら、選択肢がある、ということ。
ひとつは、任意後見契約。元気なうちに、本人が「この人に任せたい」と後見人を自分で指名しておける制度。家族を指名することもできる。
もうひとつが、家族信託(民事信託)。信頼できる家族に、財産の管理を前もって託しておく契約だ。これがあると、家庭裁判所を通さずに、たとえば施設に入って空き家になった実家を、託された家族の判断で売却できる。実家じまいと、いちばん直結するのがこれだ。
どちらも、司法書士・行政書士・弁護士に相談して、公正証書という正式な形で作るのが一般的。「司法書士さんにお願いしておく」というのは、つまりこういうことだったのか、と腑に落ちた。
ひとつ補足。2026年4月に、成年後見制度を「必要な期間だけ使える」ように見直す法改正案が決まった。ただ、実際に始まるのは2028年ごろの見込みなので、今はまだ昔のルール、と思っておくのが安全だ。
相続は、必ずしも平等じゃない
ここからは、跡取りじゃない私の、切実な話。
実は私自身、父が亡くなったときに、それを身をもって経験している。きょうだいの間で、相続は、決して平等ではなかった。「跡取りを中心に」という田舎の“当たり前”のなかで、分け方は、はっきりと傾いていた。あのときの割り切れなさは、声を上げることもできないまま、今も胸のどこかに、小さなしこりとして残っている。
そして思うのだ。──同じことが、今度は母のときに、また繰り返されるのかもしれない、と。だからこそ、面倒でも、目をそらさずに準備しておきたい。
田舎では、「跡取り」という言葉が、今も生きている。誰が継ぐか、口約束だけでなんとなく決まっていることも多い。でも、口約束は、いざというとき、ほとんど力を持たない。
逆に、母が元気なうちに遺言を残してくれているかどうかで、残された側の負担は、天と地ほど変わる。これは、お金の話であると同時に、きょうだいが揉めないための、思いやりの話でもある。
そして私が密かに恐れているのが、「負の財産」。資産より負債が多いなら、相続放棄という手がある。ただし期限は、相続を知ってから3か月。しかも、「いいとこ取り」はできない。プラスもマイナスも、まとめて受けるか、まとめて手放すか、だ。だからこそ、何があるのかを早めに把握しておきたい。
「実家じまい」と、向き合うための準備
立派な松のある、あの実家。眺めるたびに、これからどうしよう、と思う。出口を考えるとき、最低限つかんでおきたいのは、このあたり。
- 実家の名義は誰か(亡き父の名義のまま、ということもある。その場合、相続が二重に積み上がっている)
- 2024年4月から、相続登記は義務になった(放置すると過料の対象になることも)
- 田畑や山林、空き家をどうするか(売却、あるいは「相続土地国庫帰属制度」で国に引き取ってもらう道もある)
ここは本当に奥が深いので、別の記事でもう少し掘り下げたい。
いちばん大事なのは、母自身の気持ち
手続きの話ばかり書いてきたけれど、忘れたくないことがある。
母を、どこで、どう支えるか。施設か、私の家か、それとも住み慣れた実家か。前に書いたとおり、母はあの土地で、ご近所さんにたくさん支えられている。便利さだけで考えて、住み慣れた場所から引き離すことが、本当に幸せとは限らない。(→ 母は元気だった、田舎のコミュニティの話)
だから、制度や手続きと同じくらい、「お母さんはどうしたい?」を、元気なうちに聞いておきたい。これがいちばん難しくて、いちばん大事な準備かもしれない。
相談できる窓口
- 介護のこと:地域包括支援センター(市区町村の窓口)
- 後見・信託・相続登記:司法書士、行政書士
- 費用が心配なとき:法テラス(無料相談あり)
最後に。こうして書いていて、気づいたことがある。
私はこのブログで、前から「お墓はいらない」「一軒家はいらない」と書いてきた。持たない、残さない。それが私の選んだ生き方だ。
実家じまいって、結局それの“ひとつ上の世代版”なんだと思う。親が遺したものを、どう手放していくか。重くて、寂しくて、でも、目をそらしてはいけないこと。
すり減りながらでも、少しずつ。元気なうちに、ね。
前編はこちら → 母を、少し遠くから見ている|「跡取りじゃない娘」の、言えない本音