2026年6月
健康・検査のこと夏に足を出すのをためらう、あの血管──「クモの巣状静脈瘤」と血栓の“違い”を検査技師が正直に
夏。足を出す季節になると、ふと気になるものがあります。
ふくらはぎや太ももに、クモの巣のように広がる、細い赤紫の血管。50代になって「あれ、こんなのあったかしら」と気づいた方も、多いのではないでしょうか。
これ、「クモの巣状静脈瘤(spider veins)」といいます。今日は、検査技師の立場から——これが何なのか、心配なものなのか、そして先日書いたエコノミークラス症候群(血栓)とは、どう違うのかを、正直にまとめてみます。
クモの巣状静脈瘤って、何?
皮膚のすぐ下を走る、細い静脈や毛細血管が広がって、透けて見えるようになったものです。
▲ これが実際のクモの巣状静脈瘤(私自身の足です)。細い赤紫の血管が、皮膚のすぐ下に透けて見えます。同じように悩む方の、参考になれば。
よく見ると、これは「網目状静脈瘤(reticular veins)」と呼ばれるタイプです。少し深いところにある青い静脈が「親」になっていて、そこから細い赤紫の枝が、放射状に出ていることが多いんです。扇(おうぎ)の要(かなめ)のところに、少し太めの青い血管が隠れていたりします。——実は、この写真の私の足が、まさにそれ。青みがかった親の血管から、赤紫の枝が広がっているのが、見えるでしょうか。
その裏には、「静脈の圧が上がる」というしくみがあります。足の静脈には、重力に逆らって血液を心臓に戻すための、逆流防止の弁がついています。この弁がうまく閉じなくなると、血液が逆流して、末梢の細い静脈に圧がかかる。その圧で、皮膚の浅いところの細い静脈が、じわじわ広がっていく——という流れです。
なりやすいのは、こんな人
なりやすさを左右するのは、こんな要素です。
- 女性ホルモン(エストロゲン)の影響 … 血管の壁をゆるめる作用があり、妊娠・ピル・更年期前後で出やすい
- 加齢 … 血管の壁や弁が、年齢とともにゆるんでくる
- 長時間の立ち仕事・座りっぱなし
- 遺伝(家族歴)
- 体重増加による静脈への負担
女性に多く、年齢とともに増えていくのは、ごく自然なこと。とくに妊娠の経験があると、なおさら出やすくなります。
似ているけれど、違うもの
ひとつ、見分けてほしいものがあります。「クモ状血管腫(spider angioma)」という、別のものです。
- クモの巣状静脈瘤 … 青や赤紫の細い血管が、扇状・網目状に広がる
- クモ状血管腫 … 中心に1つの点があり、そこから放射状に血管が伸びる(星のような形)。肝臓の病気や、妊娠・エストロゲン過剰と関連することがある
見た目は似ていますが、「中心から脚が伸びる星形」なら後者。気になるときは、その点を覚えておいてください。
心配なもの? 検査技師の本音
結論から言うと——ほとんどは“美容的な問題”で済む、良性のものです。
ただし、もし夕方に足が重だるい、むくむといった症状を伴うなら、その奥に「伏在静脈(ふくざいじょうみゃく)の弁不全」=本格的な下肢静脈瘤が隠れている可能性があります。
ここは検査技師の役得で……私なら、自分の足を下肢静脈エコーで診て、伏在静脈の逆流があるかどうかを、確かめられます。逆に、症状ゼロで見た目だけなら、基本は経過観察でOK。気になるなら、血管外科や皮膚科で治療という選択肢もあります。
● 両足に、左右対称っぽく、じわじわ増えてきた → 加齢の範囲。あわてなくて大丈夫
● 片足だけ急に増えた・腫れた・色が変わった → 念のため受診を
いちばん大事な話──「血栓」とは、舞台が違う
ここが、今日いちばん伝えたいことです。
クモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤は、皮膚の“表層”の、細い静脈の話。一方、こわい血のかたまり=「深部静脈血栓症(DVT)」は、その名のとおり、筋肉の奥を走る“深部”の静脈(ヒラメ静脈や大腿静脈)の話です。
つまり、舞台がまったく違う。だから、表面のクモの巣状静脈瘤が、そのまま深部の血栓の原因になることは、まずありません。
| クモの巣状・網目状 静脈瘤 | 深部静脈血栓症 (DVT) | |
|---|---|---|
| 場所 | 皮膚のすぐ下(表層) | 筋肉の奥(深部) |
| 見た目 | 細い血管が透けて見える | 片足が急に腫れる・痛む |
| 左右差 | 両足・左右対称が多い | 片足だけ・左右差が明確 |
| 心配度 | 多くは良性(美容的) | 早めの受診が必要 |
両足が左右対称に、夕方じわっとむくむ・だるい(朝には引く)——このパターンなら、加齢+静脈弁のゆるみ+立ち座りの蓄積による、良性のものがほとんど。血栓のサインではありません。
逆に、DVTを疑うのはこんなとき👇
- 片足だけ急に腫れる/左右差がはっきり
- ふくらはぎを押すと痛い、突っ張る、熱っぽい
- 皮膚の赤み・色の変化
- 長時間のフライト・手術のあと・寝込んだあとなど、きっかけがある
これが揃うと、話が変わってきます。私なら、ヒラメ静脈や大腿静脈にエコーのプローブを当てて、圧迫してみる。つぶれれば血栓なし、つぶれなければ要精査——という具合に、ある程度は確かめられます(もちろん、最終的な診断は医療機関で、ですが)。
むくみ対策と、見た目のこと
最後に、おうちでできることと、見た目を減らしたい場合の選択肢を。
むくみ対策(これ以上ふやさない)
- 弾性ストッキングを活用する(むくみケアと進行予防の一石二鳥)
- ふくらはぎを動かす(足首の上げ下げ=筋肉のポンプ「ミルキングアクション」)
- 長時間、同じ姿勢を避ける/立ち座りを区切る
- 寝るとき、足を少し高くする
※ただし、両足のむくみが急に強くなった・体重増加や息切れを伴う・なかなか戻らないようなら、心臓・腎臓・甲状腺など全身の原因のこともあります。そのときは循環器内科で診てもらってください。
見た目を減らしたいなら
- 硬化療法 … 細い血管に薬を注射してつぶす。クモの巣状・網目状の定番。費用対効果がよく、私の率直なおすすめ。1回あたり数千円〜が目安(範囲・施設による)、複数回かかることも。ダウンタイムは弾性ストッキング着用、一時的な色素沈着が出ることがある
- レーザー … 注射が向かない、赤いタイプ向き
- 隠す・目立たなくする … カバー力のあるUVトーンアップ系のボディファンデや、足用コンシーラー(最近は汗・水に強いものも)
ひとつ大事な順番として——放射状・網目状のタイプは、奥に「親」になっている血管が隠れていることが多いんです。そこを先に評価・処理しないと、表面だけ消してもまた出てくる。だから治療前に、静脈エコーで“親”をちゃんと診てもらうのが近道です。
検査技師の仕事も、立ちっぱなし・座りっぱなしで、地味に足に来ます。だから、これは私自身の悩みでもあるのです。
整理すると——両足が左右対称にじわっとむくむ・だるい分には、それ自体が血栓に直結することは、ほぼありません。安心していい範囲のことが多いです。気になるのは見た目、というところですよね。気になる「片足だけの急な変化」だけ、見逃さないように。
あなたの夏が、足のことも気にしすぎず、心地よく過ごせますように。
※この記事は、検査技師としての一般的な知識をまとめたものです。診断・治療は、必ず医療機関でご相談ください。