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おひとりさま検査技師の、言えない本音
― 50代一人暮らし、仕事も人生も愚痴らせて ―
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2026年6月

健康・検査のこと

【やられたー】80歳超えの母のおすそ分けで撃沈——検査技師なのに、カビを食べてしまった話

蒸し暑い太陽の下に置かれた半額シール付きのお弁当と、黒い斑点のあるういろうのイラスト

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最近、暑い日が続いていますね。 ただ暑いだけじゃなく、じめっと蒸し暑い。この時期がいちばん、食べ物があぶないんだよなあ——なんて、職業柄いつも思っているはずだったのに。

今日は、そんな私がまんまと「やられたー」となった、ちょっと情けないお話です。

母が、おすそ分けを持って来てくれた

80歳を超えた母が、お弁当やお土産を抱えて、わが家に遊びに来てくれました。

  • 半額シールの貼ってあるお弁当
  • 手作りの、作り置きのお漬物
  • お土産にもらったという、ういろうや和菓子

母とおしゃべりしながら食べるごはんは、やっぱり楽しいものです。

お弁当には昨日の日付がついていたけれど、「まあ、これくらいなら許容範囲かな」と、おいしくいただきました。この時期に加熱していない作り置きのお漬物は、内心ちょっとだけ気になったものの——嫌なにおいもしないし、母の気持ちがありがたくて、ぱくり。

白いういろうには黒い斑点がありました。でも、「黒豆でも入ってるのかな?」なんて軽く考えて、これもぱくり。

数時間、ゆっくり過ごして、母を見送りました。 ……そして、ここからです。

見送ったあたりから、調子が悪い

母を見送ったそのあたりから、なんだかお腹の様子がおかしい。

まずは下痢。 そして、だんだん嘔吐がひどくなっていきました。

「あれ、これおかしいぞ」と思っている束の間にも、症状はどんどん本格化。おひとりさまは、こういうとき本当にひとりです。トイレと往復しながら、ぐったり。ようやく少しずつ水分が取れるようになって、ほっとひと息ついたところで、ふと母のことが気になりました。

同じものを食べた母は、大丈夫だろうか。

電話してみたら、母はピンピン

心配になって電話してみると、母はなんともない様子。元気そのものでした。

ほっとしたのと同時に、「あれ、じゃあ私だけ……?」と、ことの詳細を聞いてみることに。すると、出るわ出るわ。

  • お弁当も、お漬物も、室温に出しっぱなしだったらしい
  • とくにういろうは、1週間前にもらった生菓子。それをずっと外に置きっぱなし

そう、あの白いういろうの黒い斑点。 黒豆なんかじゃありませんでした。どうやら、カビ。

それを、私は「黒豆かな」とか言いながら、おいしく食べてしまっていたのです。やられたー。

母は、物が捨てられない世代。賞味期限切れには一応気をつけているつもりでも、よくよく聞けば1〜2年前のものなんてザラ。悪気はまったくなくて、むしろ「いいものをおすそ分けしたい」という愛情なんですよね。だからこそ、責めるに責められない。

元気な母と、撃沈した娘。 なんだか立場が逆みたいで、笑ってしまいました(笑っている場合ではないのですが)。

【検査技師メモ】食品衛生学的に、犯人を推理してみる

職業柄、こういうときについ「で、結局なにが起きてたの?」と気になってしまいます。せっかくなので、自分への戒めも込めて、食品衛生学の視点で犯人さがしをしてみます。

今回いちばん濃厚なのは、黄色ブドウ球菌(おうしょくブドウきゅうきん)がつくる「エンテロトキシン」という毒素による食中毒だと推測しています。

黄色ブドウ球菌は、特別な菌ではありません。私たちの手指や、傷口(とくに化膿したところ)にふつうに生息している、ごく身近な菌です。だれの手にもいる、と言ってもいいくらい。

ストーリーを整理すると、こうです。

  1. 調理のときに、食品へ黄色ブドウ球菌が少し付着する(ここまではよくあること)
  2. その食品が、保冷もされないまま、高温の日にわが家へ運ばれてくる
  3. 道中、菌が高温下でぐんぐん増殖
  4. わが家に着くころには、食中毒を起こすのに十分な量のエンテロトキシンが、すでに食品の中につくられていた

そう、冷やさずに持ち運んだ——これが決定打だったと思います。

そして、この毒素のいやらしいところ。エンテロトキシンは熱に強く、あとから加熱してもこわれません。だから黄色ブドウ球菌の食中毒は、「やっつける(加熱)」が効きにくいタイプ。菌をつけない・増やさない——つまり清潔にして、すぐ冷やす、が何より大事なんです。

保冷剤を入れた保冷バッグでお弁当を冷やして持ち運ぶイラスト

夏場の持ち運びは、保冷バッグ+保冷剤がほんとうに大事。今回いちばんの反省点は、ここでした。

ちなみに私は、今回の反省も込めて——というより前から愛用しているのですが、「蓋そのものが保冷剤になる」お弁当箱を使っています。これなら別に保冷剤を用意しなくても、ある程度ひんやりをキープしてくれるので、ずぼらな私にぴったり。柄はご覧のとおり、ちょっとかわいいやつです(笑)。念には念を、ですね。

蓋が保冷剤になるお弁当箱と保冷剤

私も蓋が保冷剤になるお弁当を使っています。念には念を😄

食中毒予防の基本は、よく言われる「つけない・増やさない・やっつける」の3つ。今回の私は、見事に2つ目(増やさない)をやられました。梅雨から夏にかけてのこの時期は、気温も湿度も高く、室温に出ているだけで菌には絶好の繁殖チャンス。今回そろっていたのは、まさにリスクの見本市のような顔ぶれでした。

  • 前日の日付のお弁当を、さらに保冷なしで持ち運び&室温に放置
  • 加熱していない作り置きのお漬物
  • 1週間も室温に置かれた生菓子

そしてカビについて。目に見える黒い斑点は、いわば氷山の一角。表面に見えている部分だけでなく、菌糸が内部にまで伸びていることがあります。「ここだけ取れば大丈夫」と思いがちですが、やわらかい和菓子のような食品は、見えない部分にも広がっていると考えたほうが安全です。基本は「カビが生えたら、もったいなくても食べない・捨てる」。今回の私の反面教師ぶりを、どうかお役立てください。

(※一度口にしてしまったからといって、過度に怖がりすぎる必要はありません。ただ、わざわざ食べるものではない、ということですね。)

結果としては大事に至らず、私もなんとか回復。「私はなんともなかったけどね〜」と笑う母を見て、ほっとしつつ——今後はちゃんと気をつけようね、と心に誓ったのでした。

こんなときは、がまんせず受診を

たいていの食あたりは、水分をとって安静にしていれば数日でよくなります。でも、なかには医療機関にかかったほうがよいサインもあります。

  • 血の混じった下痢が出る
  • 高い熱をともなう、強い腹痛が続く
  • 水分がまったく取れず、おしっこが出ない・ぐったりする(脱水のサイン)
  • 症状が何日も続いて、よくならない

とくに高齢の方・小さなお子さん・持病のある方は重症化しやすいので、早めにお医者さんへ。今回は母が元気で本当によかったですが、もし逆だったら……と思うと、ぞっとします。

(あくまで一般的な話なので、不安なときは必ず医療機関で相談してくださいね。)

「思い込み」って、こわい——アニサキスの話

今回つくづく思ったのが、「だいじょうぶだと思った」がいちばんあぶない、ということ。

これで思い出したのが、以前の患者さんの話です。胃カメラでアニサキスという寄生虫が見つかった、80代の男性。聞けば「サバを酢で締めて食べた。酢だから大丈夫だと思った」とのことでした。

実は、アニサキスは酢では死にません。塩や、わさび、しょうゆでも同じです。サバやアジ、イカなどの魚にいる寄生虫で、生きたまま食べてしまうと胃の壁に食いついて、激しい腹痛を起こすことがあります(胃カメラで虫体を取り除く治療になります)。

ちゃんと退治するには、しっかり冷凍するか、加熱するか。「酢で締めたから安心」は、残念ながら思い込みなんです。私の「黒豆かな?」と、どこか似ていますよね。思い込みって、こわい。

ちなみに——検査技師って、こういう寄生虫の勉強もするんです。学生のころに教科書で見た、ちょっとぞわっとする虫たちのことを、いまだに覚えています。

そして余談ですが、東京・目黒には「目黒寄生虫館」という、寄生虫専門の博物館があるんです。職業病でしょうか、前々から気になっていて——実は、近いうちに行ってみる予定です。どんな世界が広がっているのか、おひとりさまの渋い遠足、いまからちょっと楽しみにしています。

それでも、母の気持ちはありがたい

撃沈はしましたが、母が「娘においしいものを食べさせたい」と、重い荷物を抱えて来てくれたこと自体は、やっぱりうれしいんです。

これからは、いただいたものをその場でありがたく受け取りつつ、こっそり日付とにおいと見た目をチェックするという、検査技師らしい習慣を身につけようと思います。あと、母の冷蔵庫もときどきのぞきに行かないと……。

蒸し暑いこの季節、みなさんもどうか、お弁当や作り置きの扱いにはお気をつけて。 「黒豆かな?」は、ときに罠です。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
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